(問題社員とは)
・採用試験の時に経歴を詐称した
・仕事の能率が悪い/だらだらと残業を続ける
・遅刻や欠勤が多い
・会社のPCを私的に利用する(ゲーム、ネット)
・職場内で不倫を行っている
・うつ病に罹患する
・パワハラやセクハラを行う
・SNS等に仕事の内容について書き込みを行う
などなど、「自分が問題を起こしている」と自覚していない社員も多い。
考えられる会社への影響
(場合によっては会社に損害賠償責任が発生する)
⇒適切・早期の手当が必要。放置は危険
①現状把握
・どのような問題が起きているのか、当該問題の原因は何かを把握する
・関係社員(本人・周囲の社員等)からのヒアリング、資料収集
②問題への対処方法の検討
①で把握した問題・原因を踏まえ、どのような対処方法があるのか(対本人だけでなく、組織として改善するところはないか)を検討する。
③対処方法の実施と経過確認
②で検討した対処方法を実施し、問題が改善・解決に向かっているかどうか確認を行う。指導の内容や経過について記録化する(場合によって録音)。
④改善が見られなかった場合
・しつこく指導を繰り返し、改善を図る。
・他の改善方法の検討…配置転換等が有効なことも
・一定期間が指導を繰り返しても改善が見られなかった場合には、懲戒処分の検討を行う(戒告、けん責、減給、出勤停止、降格等問題のレベルに応じて)
⑤解雇
懲戒になっても改善が見込めない場合には、最終手段として解雇も検討。まずは、話し合いによる合意による退社を目指し(退職勧奨)、これが難しいようであれば、普通解雇・懲戒解雇に踏み切る。
・退職勧奨は違法ではない。ただし、あくまでも、労働者の自由意思による雇用関係の終了を促すものであり、自由な意思決定が出来る状況を常に確保する必要がある(「手段・方法が社会通念上相当」「不当な心理的圧力を加えたり、名誉感情を不当に害する言動」は用いない)。
・退職に追い込むことを目的とした配転や仕事の取り上げはしてはならない
(従業員に「嫌がらせではないか」と誤解をさせないため、実施する場合には十分な説明が必要)
・話し合いに出頭命令を発すること、明確に退職意思がないことを表明しているのに殊更に退職を勧奨し続けることはタブー
・長時間、多数回に及び退職勧奨は退職の強要=不法行為とみなされる危険
【裁判例】
下関商業高校事件・日本アイ・ビー・エム事件等多数
・普通解雇か懲戒解雇かの選択(態様の悪質性・同種行為による懲戒処分歴・会社への影響等)
①普通解雇:労務提供不能、労働能力や適格性の欠如、規律違反行為、整理解雇等
②懲戒解雇:懲戒処分(ペナルティ)としての解雇であり、最も重い処分
①普通解雇
・場合、30日前の解雇予告または解雇予告手当の支払いが原則必要
※ただし、2週間以上の無断欠勤、事業所内での盗取、横領等の場合には不要となることも。
②懲戒解雇
・就業規則に記載されている懲戒解雇事由に該当しない限り出来ない
・懲戒解雇では、過去に懲戒した事実を解雇理由には出来ない(二重処罰の禁止)
・従業員にとって、労務の提供は会社に対する義務
⇒遅刻・欠勤によって労務の提供を行わないことは労働法上の義務違反であり、解雇理由となる。
・ただし、「解雇権濫用法理」(労契法16条)
『解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を
濫用したものとして、無効とする。』
⇒「客観的合理性」「社会通念上相当性」の2要件を満たす必要がある。
(1)「客観的合理性」
①労働者の傷病や健康状態に基づく労働能力の喪失
②勤務能力・成績・勤務態度不良・適格性の欠如
③職場規律違反・職務怠慢(欠勤・遅刻・勤務態度不良)
④非違行為・服務規律違反(業務命令違反・不正行為等)
⑤経営上の必要性による解雇
(2)社会的相当性
・当該問題行為の重大性・行為態様
・労働者が反省しているか否か、過去の勤務態度・処分歴、改善の見込み
・他の労働者の処分・過去の処分例との均衡
・弁明の機会が付与されているかどうか
・解雇回避義務を履行しているかどうか(特に整理解雇の場合)、軽い処分から重い処分へ
【裁判例】
①高知放送事件(最判昭52.1.31労判268号17頁)
アナウンサーが宿直勤務の際、2週間の間に2回寝坊し、提示ラジオニュースを放送出来なくなった放送事故を2度起こしたため、解雇とした。
「普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になるものというべきである。」
として、解雇処分について無効と判断。
②日本ヒューレット・パッカード事件(最判平24.4.27)
約3年間にわたり、加害者集団からその依頼を受けた専門業者や協力者らによる盗撮や盗聴等を通じて日常生活を子細に監視され、これらにより蓄積された情報を共有する加害者集団から職場の同僚らを通じて自己に関する情報のほのめかし等のいやがらせを受けており、問題が解決されたと判断できない限り出勤しないと告げ、有給をとった後40日欠勤した。会社は速やかに出社するよう指示、これに応じない労働者を諭旨退職処分。
「ほのめかし等の嫌がらせを受けている、精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては,精神的な不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想されるところであるから,使用者である上告人としては,その欠勤の原因や経緯が上記のとおりである以上,精神科医による健康診断を実施するなどした上で・・・その診断結果等に応じて,必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し,その後の経過を見るなどの対応を採るべきであり,このような対応を採ることなく,被上告人の出勤しない理由が存在しない事実に基づくものであることから直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨退職の懲戒処分の措置を執ることは,精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいい難い。」として解雇無効
③神田運送事件(東京地決昭50.9.11労判236号36頁)
1年に欠勤27日、出勤252日のうち99日遅刻した社員を解雇した事案
⇒けん責、出勤停止、減給等の処分をとって警告事実がなく、反省の機会を与えなかったとして解雇無効
④東新トレーラーエキスプレス事件(東京地裁H4.8.25判決労判616号92頁)
入社して1年間で具体的な理由を明らかにぜずに無断欠勤が通算70日
⇒再三注意・警告(文書での警告含む)したのに改善されなかった場合の懲戒解雇は有効
①無断あるいは正当な理由のない遅刻・欠勤を理由とする懲戒処分が出来るように、懲戒理由として
就業規則に定まっている必要。
②問題社員に対して、遅刻・欠勤の理由を確認し、そのうえで理由に応じた改善(正当な理由のない遅刻・
欠勤をなくさせる)を促し、その後の様子を確認。その際に、社員からの聞き取り内容や指導内容を書面
化する。遅刻・欠勤については、タイムカードや報告書等の資料を確保。
※欠勤理由がメンタルヘルス・体調不良であった場合等については、病状を把握し、残業を禁止したり医師への受診を促し、場合によっては療養を取らせる必要があるので注意。
③改善が見られない場合には、口頭注意から、書面注意へ、さらにはけん責等の軽い懲戒処分から
はじめ、再度改善を促しつつ、処分が重くなると警告。
④最終的には解雇を検討する。
①「仕事が遅い」「ミスが多い」という抽象的事実に留まらず、具体的にどのような労働能力が
欠如しているのかを正確に把握する。
=どのような内容の労働能力を求めているか、そのうちどの点が欠如しているのか。
②記録化
当該社員に注意・指導を行った内容と社員の反応、その後の社員の対応・変化を記録化する。
→5W1Hに沿って記録化をすすめると良い。
社員に対しても、指導の内容について書面を渡すことで、社員に十分理解させ、「聞いていない」「指導が分からなかった」 などの言い訳をさせない工夫も必要。
③口頭→書面での注意・指導で改善がなされなかった場合には、今後改善がみられなかった場合に労働契約の解消もあり得る旨をつたえ、さらなる改善を図る。
④改善がなされなかった場合には、異動・配転等の検討=解雇を回避する努力
・・・不足している能力の内容や程度に合わせて検討を行う。
※当初より特定の能力を有することが前提として高給で雇用された従業員等については、④のプロセスは不要となることが殆ど。
⑤最終的には解雇を検討する。
・残業については、残業せずに帰社するよう指導し、場合によっては残業禁止命令を出すことも考えられる。
Ⅱ言われた仕事をやらず、上司の命令に刃向って報告・連絡・相談も行わない社員への対応
その一方で、部下が上司に自分の意見を述べることも自由。また、むしろ上司の言動がパワハラと評価される可能性があるので、「単なる反抗的な態度」であるのか、「単に意見を述べている」のか、当事者・関係者から事情を聴取し、事実関係を確定させる必要がある。
→日々のコミュニケーション・報連相すべき事項及び方法の特定(ルール化)等の工夫が必要
【裁判例】
① 信用交換所東京本社事件(東京地裁 昭和60年9月25日判決)
上司の質問に回答を拒否したり、レポートを上司に無断で持ち出したり、上司からの資料の返還命令に対して社長名の命令書を出せと反抗的態度を取ったりした事案につき、解雇を有効とした。
②山本香料事件(大阪地判平10年7月29日労判749号26頁)
調香士として採用された社員が
・新研究所の配置図に自分の机が無いことに怒り、直属の上司に激しく抗議した。
・漆器を購入する際、経理担当課長が費用や発注先の業者を尋ねたら 「なぜそこまで口出しするのか」と反抗的な態度をとった。
・道具を勝手に購入し、経理担当課長の問い合わせに対し「いちいち、課長に言われることはありません」と反発
・直属の上司に「上司らしいことを何もしてくれず、上司面するな」と怒鳴った。
ことを理由に解雇
→ 解雇事由の一つ一つをとって解雇事由とするにはいずれもいささか小さな事実にすぎないが、上司への反抗的態度、過激な言辞を発してその指示に素直に従わないことを総じてみれば、職場の秩序を乱すもので解雇権の濫用にも当たらず有効とされた事例。
③セコム損害保険事件(東京地判平19.9.14労判947号35頁)
当該社員が
・入社直後から上司に対し会社のあり方を問う
・職場長に対し直属の上司の批判を行う
・直属の上司に対し、市使途を問うようなことを述べる
・職場長からの座席の移動の指示に対し書面で断る
会社は指導・警告・厳重注意、7~8回の面談による指導を行ったが改善が見られず、職場環境は悪化の一途をたどっため、
①礼節と協調性に欠ける言動・態度による職場の秩序が乱れ、同職場の他の職員に甚大な悪影響を及ぼした。
②良好な人間関係を回復することが不能な状態に陥っている
③再三の注意を行ってきたが改善されないこと(他の懲戒処分を試みる必要性に乏しい)
という理由から解雇。
→「原告の問題行動・言辞の入社当初からの繰り返し,それに対する被告職制からの指導・警告及び業務指示にもかかわらず原告の職制・会社批判あるいは職場の周囲の人間との軋轢状況を招く勤務態度からすると,原被告間における労働契約という信頼関係は採用当初から成り立っておらず,少なくとも平成18年3月末(入社1年後)時点ではもはや回復困難な程度に破壊されているものと見るのが相当」として解雇を有効とした。
顧客情報や営業秘密を他社に売り渡している社員がいます。どのように対応すべきでしょうか?
①損害賠償請求
・秘密保持義務違反
→在職中の社員は会社の業務上の秘密を守る義務を労働契約に付随する義務として負う。
就業規則に規定を設けている、秘密保持契約を個別に締結している場合もある。
・不正競争防止法違反
不正競争防止法違反に該当する場合は、損害賠償請求・差止請求を行うこともあり得る。
要件
ⅰ営業秘密に該当すること(秘密管理性、非公知性、有用性)
ⅱ図利加害目的があること(不正な利益を得る、会社に損害を与える目的)
※営業秘密=秘密保持義務の秘密ではない
②懲戒処分
懲戒処分の対象とはなり得るが、事案に応じて適切な懲戒処分でなければならない。
①結果の重大性
②行為態様
③情状
上記①~③を総合的に判断する必要
→会社の受ける損害の程度、情報漏洩の目的、会社の管理体制等
③刑事告訴
・窃盗罪、業務上横領罪
→物を持ち出した場合は、刑事責任を負う可能性がある。
しかし、情報を持ち出した場合、たとえばデータをメールで送信するなどの場合は、窃盗罪、業務
上横領罪にはならない。
・会社の秘密を保護するためには、個別に秘密保持契約を締結することが有用
→不正競争防止法の「営業秘密」より広い範囲での秘密の保護が可能
個別に契約を締結することにより、社員の秘密に対する意識を持たせることができる
退職後にも一定範囲で秘密保持義務を課す契約を締結することも可能
・秘密保持契約の注意点
ⅰ秘密の定義
抽象的・曖昧な契約内容は無効となる危険がある
ⅱ違約金条項
高額な違約金は公序良俗違反(民法90条)になることもあり得る
労働基準法16条(労働契約の不履行に違約金を定めてはならない)違反の可能性
ⅲ退職後も秘密保持を負う契約
合理性が認められれば有効となる。
退職前の地位、秘密の性質・範囲から合理性を有するか(ダイオーズサービシーズ事件)
☆秘密保持契約は、入社時に締結しただけでは不十分。
社員の地位、業務内容等の変化に伴い明確な契約を締結していく必要がある。
☆秘密保持は、事前に契約締結を工夫するなどしておくことで、情報漏洩の予防になり、事後的な対応を容易にすることもできる。
【裁判例】
①西尾家具工芸社事件(大阪地判平14.7.5)
3期連続事業別損益計算書を開示した行為について懲戒解雇
→会社以外の第三者も知り得る可能性のある性質であり、秘密保持契約違反を否定し、懲戒解雇を無効とした。
②ブランドダイアログ地位確認等請求事件(東京地判平24.8.28)
顧客データを取引相手にそうした社員を解雇した事案
→会社の管理体制が厳格でなかったこと、不当目的ではなかったことを理由に懲戒解雇を無効とした。
③ダイオーズサービシーズ事件(東京地判平14.8.30)
退職後にも秘密保持義務を負うする契約に違反した元従業員に損害賠償を求めた事案
→退職後に広く秘密保持義務を認めることは不当な制限になる。
一定の範囲で秘密保持を存続させる必要性もある。
秘密の性質・範囲、価値、当事者の退職前の地位に照らし、合理性が認められるときは有効
①アルバイトをしている社員を懲戒処分できますか?
②退職後に同業他社に就職した社員がいます。何か対応ができるので
しょうか?
③元社員が会社の顧客に営業をしてきます。対応手段はありますか?
①兼業を就業規則、労働契約で禁止することは可能
②兼業を理由とする懲戒処分
・兼業が企業秩序を乱し、労務の提供に支障があるような場合にのみ可能になる。
・重要なのは兼業理由、期間、内容等からどのような懲戒処分が妥当かを慎重に判断する。
→会社としては、いきなり懲戒処分するではなく、注意指導をしっかりと行い、問題行為を正確に把握しておく必要がある。
対応を疎かにすると、企業秩序の維持ができない。
懲戒処分までできないとしても、具体的に指導をしておかないと、将来の懲戒処分が無効とされる可能性がある。
①在職中の社員は労働契約上の義務として、競業避止義務を負う
退職後の社員にどこまで競業避止義務を負わせられるかが問題
→入社時に誓約書の提出を求める会社が多いがそれだけでは不十分。
また、退職時には誓約書の提出、契約の締結を拒否する可能性もある。
☆以下の点に注意して、状況に応じて誓約書の提出を求めること
ⅰ社員の地位(管理職、営業秘密を扱う部署等)
ⅱ制限期間(無限定や長期の期間は危険)
ⅲ制限地域(地域の限定)
ⅳ制限範囲(禁止する競業の内容)
ⅴ代償措置(金銭的補償など)
以上の点に留意し、法的有効性を確保できるようにしつつ、社員への教育、意識の徹底を図る。
②会社の対応
・損害賠償請求
・退職金の減額
半額の不支給を認めた裁判例はあるが、退職金は賃金の後払いとしての性質があるため、実際の判
断は慎重なものになる。また、就業規則に定めておく必要。
・不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求
しかし、通常の営業行為は、営業の自由の範囲内。顧客にとっても契約を締結する自由がある。
→自由競争の範囲を逸脱した違法な態様かどうかがポイント
会社の顧客情報を持ち出して利用した場合、会社の名前を利用した営業行為などは違法とされる
可能性が高い。
☆事後的な対策としても、就業規則による競業禁止規定の整備、地位に応じた誓約書の提出を求めておけば損害賠償請求の根拠となる。ただし、規定の仕方には注意する必要がある。
【裁判例】
①定森紙業事件(大阪地判平元・6.28)
社員の兼業に気がついていながら2年8ヶ月放置した後に解雇したという事案で、解雇を無効とした。
②ダイオーズサービシーズ事件(東京地判平14.8.30)
退職後の競業避止義務について、ⅰ退職後2年間という短い期間、ⅱ在職時の担当地域、その隣接地
域の同業他社という限定した地域、ⅲ禁じられた職種の特殊性、ⅳ会社の利益と労働者の受ける不利益、等を検討し、退職後の競業避止義務契約を合理的制限の範囲にあるとして有効とした。
※ⅱの同業他社の範囲も問題となる。ヤマダ電機事件では、家電量販店に限るという判断がされた。
③カナッツコミュニティ事件(東京地判平23.6.15)
退職後、競業他社を設立し、在職時の顧客情報を利用し、顧客を奪取した事案で、在職時に守秘義務に違反して、不正に取得した情報を利用した営業行為を違法な営業活動とした。
【設問】
①精神的な病気により、仕事をすることができない社員を解雇できますか?
②うつ病だと報告を受けている社員がプライベートでは遊び回っています。何か対応はできませんか?
③休職中に旅行に出かけている社員にどのうな対応をすればいいでしょう
か?
・いきなり解雇をすると、解雇権の濫用になる可能性が高い
・休職命令を出すことが必要(日本ヒューレット・パッカード事件参照)
休職命令は客観的資料に基づかなければならない。
就業規則に「会社が必要と認めるとき」とあっても、客観的資料に基づかない休職命令は出すべきではない。
・休職制度は法律の規定ではない
・就業規則で内容を定めておく必要
☆休職制度は私傷病の社員に対する解雇猶予制度であり、まずは休職命令を出して療養の機会を保障する必要がある。
・就業規則の注意点
ⅰ休職期間中の賃金
ⅱ休職期間の通算規定
ⅲ同一疾病による再度の休職
休職命令を出しても、仕事に復帰できる可能性が低い場合に休職命令を出さずに解雇することも考えられる。
客観的資料がどの程度そろっているかにもよる。
→実際の判断は難しい。重度の病気で回復可能性がない場合は、いきなり解雇することも考えられるが、その判断は慎重にすべきであり、避けた方が無難。
4.受診命令
社員にうつ病の疑いがある、うつ病と申告しているが、プライベートでは遊んでいるいわゆる「新型うつ病」の場合には、受診命令を検討。
ただし、まずは面談を行い、社員との信頼関係を醸成し、任意での専門医の受診を促す。
→一方的な受診命令、休職命令の結果、会社に対して敵意を抱くことがある。
面談を踏まえて、受診をさせ、診断書の提出をさせておく。
受診命令に至る経過、命令までの客観的資料を作成
受診命令に従わない場合は、戒告等をしておき、資料化しておく。
※受診命令は就業規則で定めておく
5.療養専念義務
・休職制度は、療養期間を社員に与える制度
→社員に療養専念義務がある。
・懲戒処分
療養に専念するよう業務命令をまずは出すべき
ただし、病気に影響を与えるようなものではない社員の行動は療養専念義務があるとしても、制限できないと考えられるので、まずは事実確認を行い、状況を確認することが必要
・休職の取り消し
私生活で遊んでいる場合に復職を命じることはあり得ますが、メンタルヘルスの場合は即断することは避けるべき。その時点で主治医の診断書、意見を聞く必要がある。
【裁判例】
①日本ヒューレット・パッカード事件(最判平24.4.27)
強度の被害妄想を抱いている社員に対して、休職命令をすることなくした解雇が無効とされた例。
専門医の診断を受けさせ、診断結果に応じて休職等の処分を検討し、経過を見るなどの対応を採るべきと判示した。
②マガジンハウス事件(東京地判平20.3.10)
休職中の社員が、配転命令に抗議、組合活動に参加、バイクで外出、競馬等の行動が療養専念義務
に違反するか争われた事案で、療養専念義務が法的義務かどうかはともかく、就業規則に則した服務規律違反が問われるとした上で、配転命令への抗議活動、組合活動への参加が病気へ影響を及ぼす
と判断され、懲戒事由に該当するとされた。
③片山組事件(最判平10.4.9)
メンタルヘルスの事案ではないが、復職について、軽減業務を社員が求めた事案で、「能力・経験・地位・企業規模・業種等」の事情に照らして、労働者が配置される現実的可能性のあるほかの業務に労務の提供をすることができ、かつ、労働者が希望している場合は、履行の提供があるとした。
→労働契約で職種限定がなかく、軽減業務の申し出がある場合は、この判例の枠組みを参考にして判断する必要がある。